明日、7月13日(土)から歌舞伎座ギャラリ−(歌舞伎座タワー5階)にて、「歌舞伎の夏 色彩と音」展がはじまります。私たち大道具も、小さな松羽目の舞台を作るなど展示に参加いたしました。また、壁や天井に水、波、空などの涼しげな色合いをふんだんに使った背景も制作し、少しでもお客様に涼味を感じていただけるようにしております。
この歌舞伎座ギャラリーは、衣裳や小道具なども展示され、間近でさまざまなものをご覧いただくことができます。ぜひおでかけくださいませ。
●「歌舞伎の夏 色彩と音」展覧会概要
開催期間
2013年7月13日(土)~9月1日(日)
※会期中無休
開館時間
10:00~18:00(最終入館は17:30まで)
※7月21日(日)は12時開館
入場料
一般:500円(小学生未満無料)
団体:400円(20名様以上)
歌舞伎座ギャラリーについての詳しい情報やお問い合わせ先については以下をご覧下さい。
松竹株式会社 歌舞伎座ギャラリー
https://www.shochiku.co.jp/play/kabukiza/gallery/
歌舞伎美人ニュース
歌舞伎座ギャラリー「歌舞伎の夏 色彩と音」展のご案内
http://www.kabuki-bito.jp/news/2013/06/post_828.html
舞台安全祈願修祓式が行われました
今日は歌舞伎座の舞台にて「舞台安全祈願修祓式」が執り行われました。7月の公演では『加賀見山再岩藤』、『東海道四谷怪談』が上演されるため、鐵砲洲稲荷神社の宮司さんをお迎えしてその安全をお祈りいただき、俳優さんをはじめ公演関係者がお参りをしました(大道具も参列しております)。
また『東海道四谷怪談』については、お岩様の霊をなぐさめ舞台の安全を祈るために出演者など舞台の関係者がお岩様に関わりのある寺社に参拝するのが習わしとなっています。今回も、6月21日に巣鴨にある妙行寺、四谷の田宮神社と陽運寺への参拝が行われました。
大道具では、今日から本格的に7月公演の準備に入りました。1カ月間、私たちも事故のないように仕事を勤めたいと思っております。
関連ニュース
歌舞伎美人「菊之助が於岩稲荷で成功祈願」
http://www.kabuki-bito.jp/news/2013/06/post_831.html
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http://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/2013/07/post_61.html
歌舞伎座の大道具の提灯を作っている柏屋商店の上野三郎さんにお話をうかがいながら、提灯について深く知るための連載記事の最終回です。その1、その2もぜひご覧ください。
(取材・文 田村民子)
提灯は火袋と呼ばれる中央部をつぶして小さくすることができます。使わないときは品良く収納したいというのは日本人の美点であり、提灯はそれを体現した道具のひとつといえます。しかし、それゆえ作る方に手間がかかります。なにしろ軸がないわけですから、ふわふわと不安定。上野さんのように形ができあがった後に手で文字や図案を入れていく人にとっては、本来は厄介なはずです。一体、どうやって仕事をしているのでしょう。
実は、火袋の内側につっかい棒のようなものを入れて、張りをもたせて仕事をしているのです。これは「つっぱり」と呼ばれる竹の棒で、上野さんのお手製。1つの提灯に3本のつっぱりを用います。実際につっぱりを入れるところを見せていただきましたが、ちょっと加減を間違うと火袋を突き破ってしまいそうで、おいそれと素人が真似できるものではありません。しかも、つっぱりで張りをもたせているとはいえ、この状態で色を塗ったり、文字や図案を描いたりするには、なんとも心許ない感じです。当たり前ですが、長い修練を経なければ、仕事ができません。
ひょんなことから提灯の形を作るための貴重な用具も拝見しました。火袋の骨になる細い「ひご」をあの丸い立体にするために、くせをつける道具があるというのです。今は上野さんがこれを使うことはないそうですが、大切にしまっておられたものをわざわざ探し出して見せてくださいました。それは木製の8枚の板で、これを円状に広げると火袋の形になります。周縁にはひごを沿わせるための溝が刻んであり、その溝にそって1本のひごを螺旋状に巻きつけ、くせをつけるというのです。螺旋状にするということは1枚ずつの溝の位置がずれているということ。8枚の板の形は微妙に異なるため、並び順が狂うとひごが流れていきません。板に書かれた番号を見ながら、上野さんが並び替えていきます。今ではこうした木製の型を使うことはほとんどないとのことで、貴重な資料です。
上野さんは快活なお人柄で、腰も軽く大変お元気そうですが、大きな病気を抱えておられるとのことでした。歌舞伎の仕事は月によって仕事量も異なり、ことに月の後半はスケジュールが厳しくなることが多いといいます。歌舞伎の仕事を存分にやり抜くために、他はあまり取らないという姿勢を貫いてこられた上野さん。しかし、「仕事を引き受けたのに、もしも病気などで納期に間に合わないということがあっては、申し訳ない」と、今後については思案中とのことでした。提灯づくりに生涯を捧げてきたからこそ、自分を偽れないのかもしれません。
職人の世界は膨大な時間をかけて身体に技をたたき込むもの。そうして身体化された記憶に基づく技の伝承は容易ではありません。こうした課題は、歌舞伎を支えるものづくりの世界ではあちこちに散見され、実効ある対策が待たれるところです。歌舞伎座の大道具でも場吊提灯の部材作りの一部を引き受けるなど、一歩踏み込んだ連携を模索しつつ、現場レベルでの解決策を探っています。
提灯ひとつにも、深い物語がしみ込んでいます。歌舞伎座の大道具はこうした道具を作る人に支えられながら仕事をしています。今度、歌舞伎座にお出かけになったら、まずは玄関で上野さんの手が触って生み出した提灯をたっぷり愛(め)でてみてはいかがでしょうか。(完)
イラスト作成:歌舞伎座舞台(株)デザイン課
歌舞伎座の大道具を支える職人 提灯 その1
http://kabukizabutai.co.jp/saisin/tokusyuu/203/
歌舞伎座の大道具を支える職人 提灯 その2
http://kabukizabutai.co.jp/saisin/tokusyuu/276/
*「歌舞伎座の大道具を支える職人」は今後、シリーズ展開してまいります。これから、さまざまな職人さんをご紹介する予定です。お楽しみに!
その3 梅の立木
これは「梅の立木(たちき)」と呼ばれる道具で『壽曽我対面』などさまざまな演目に登場します。手前が紅梅、後ろは白梅。花の部分は紙で作られた造花で、幹にひとつひとつ打ち付けて作ります。歌舞伎の舞台には桜、藤、菊、紅葉などさまざまな花木が登場しますが、それらは「造花」の担当者が材料を手配し、製作しています。
造花は歌舞伎座課の社員が受け持ちます。「転換」と呼ばれる仕事をしながら、造花にまつわるさまざまな仕事を行います。
歌舞伎座課の社員インタビュー
http://kabukizabutai.co.jp/kabukiza/
テレビ朝日「徹子の部屋」にて、歌舞伎座の大道具の仕事場が紹介されます。取材では、黒柳徹子さんが背景画を描く作業を見学される様子などを撮影されていました。よろしければご覧いただけましたら幸いです。
番組名:「出張!徹子の部屋 パート5 夢トーク豪華3本勝負 お宝映像も大放出スペシャル」
放送予定日時: 2013年7月4日(木)19:00 ~ 21:48
番組内容(テレビ朝日番組表より抜粋して転載)
▼超豪華俳優が勢揃い!新生・歌舞伎座 巡り!
今年4月に生まれ変わった話題の歌舞伎座へ。歌舞伎座の楽しみ方はもちろん、めったに見ることのできない裏側まで潜入取材。花形俳優から人間国宝まで歌舞伎スターが続々登場!貴重映像も交え“歌舞伎の世界”を大公開!
番組ホームページ http://www.tv-asahi.co.jp/tetsuko/
背景画を描く仕事をしているのは「第一美術課」です(以下のページは社員インタビュー)。
http://kabukizabutai.co.jp/daiichi_bijyutsu/
*番組の都合により放映日時が変更になる場合があります。予めご了承ください。
歌舞伎座の大道具の提灯を作っている柏屋商店の上野三郎さんにお話をうかがいながら、提灯について深く知るための連載記事の2回目です。その1をご覧になっていない方は、こちらもご覧ください。
(取材・文 田村民子)*全3回
さて、いよいよ歌舞伎の舞台に登場する提灯についてお話をうかがいます。
歌舞伎の演目ではさまざまな提灯が登場しますが、裏方の分類でみると2系統あり、屋体の軒につり下げる提灯などは大道具、俳優が手に持つものなどは小道具が手配します。大道具が扱う提灯で登場頻度の高いものは、やはり赤い丸い提灯です。
『於染久松色読販』と『籠釣瓶花街酔醒』の提灯を見てみましょう。図案は異なりますが、サイズは同じです。上野さんによるとこの提灯は一括して「二寸弧(にすんこ)」と呼ぶそうです。その名称の付け方がいかにも職人らしい。大道具の世界同様に尺貫法(尺、寸など日本古来の長さなどの単位)を用いた表現ですが、二寸といっても実は一尺二寸(約36センチ)。一尺は入れなくても一尺以上というのは見て明らかなので端折っているのです。では、どこの長さかというと火袋(ひぶくろ)と呼ばれる丸い部分の縦の長さを示しています。そして形が丸いものを「弧」と称しているのでしょう。あまたあるであろう多品種の提灯から区別するのに過不足ない呼称です。こうした名前の付け方は職人にとっては、なんということもないことかもしれませんが、古い呼び名には味があり外の世界の者には興味深く感じられます。
上野さんが「うちと歌舞伎の大道具でしか通じない名称」という歌舞伎ならではの提灯があります。それは場吊提灯(ばづりちょうちん)。襲名披露や『お祭り』、『暫』などの舞台に飾られるもので、俳優や劇場の紋が入ります。もちろんこれらの紋は上野さんの手描き。型紙などを使わず目見当で描いていくため、複雑な紋は時間がかかります。ひとつひとつ疎漏のないように仕上げていきます。おもしろいのはその形です。客席から見ていると普通の提灯に見えますが、実は後ろは平らで半丸なのです。近くで見ると納得するのですが、かなりの大きさがあるため、これが球体であるのと半丸であるのとでは収納スペースにかなりの差がでます。観客には関係ない話ではありますが、大道具が扱うものはまさに道具が大きく、かつ一日に沢山の演目が出るため収納を工夫しなくてはいくら空間があっても足りません。そういう意味で、半丸の場吊提灯はすぐれものといえます。
さて、どうやってこの形を作っているかというと、普通の提灯を上野さんがはさみでジョキジョキと半分に切っているのです。野暮を承知で、アタリの線を引くんですか?とたずねてみると「勘ですよ。どんどんやらなきゃ納期に間に合いませんよ」。とにかく時間との戦いのようです。
少し余談になりますが、歌舞伎の大道具の「絵描き」が描いた絵の提灯もあります。この提灯の裏側には照明が仕込んであり、ほんのりと明るくなるようにしてあります。これを「灯入れ(ひいれ)」といいます。これにはちょっとした工夫があって、白い柄の部分は光が透過するように蝋(ろう)で描いてあります。熱してゆるくした蝋が固まらないうちに、さっと手早く描かなくてはなりませんので高い技量が必要です。芝居の仕事というのは、うまいだけではダメで、いずれも「いかに早くこなすか」が重要なのです。(その3へ続く)
「絵描き」の仕事について
http://kabukizabutai.co.jp/daiichi_bijyutsu/
歌舞伎座の大道具を支える職人 提灯 その1
http://kabukizabutai.co.jp//saisin/tokusyuu/203/
歌舞伎座の大道具を支える職人 提灯 その3
http://kabukizabutai.co.jp/saisin/tokusyuu/286/
その2 三浦屋の大屋根
これは『助六由縁江戸桜』の舞台に登場する「三浦屋」の大屋根です。長さは16mあります。少しふくらんだ部分が入り口の上部。その下に三浦屋という文字の入ったのれんが下がります。
かなり長さがありますがつなぎ目が出てしまうと興醒めなので、ちょっと手間なのですが歌舞伎座ではこだわって1枚ものとして作っています。屋根の骨組みを作るのは製作課、色をつけるのは「塗り方」(第二美術課)の仕事です。
製作課のインタビュー記事
http://kabukizabutai.co.jp/seisaku/
塗り方のインタビュー記事
http://kabukizabutai.co.jp/daini_bijyutsu/
歌舞伎座の建物、客席を情緒豊かに彩る赤い提灯。
芝居のなかでは、さまざまな種類が使い分けられ、
馥郁たる光を放ちながら、さりげなく場面を盛り立てます。
これらの提灯の絵付けは、全て職人の手仕事。
江戸後期から今に続く、提灯作りの心と技の世界をご紹介します。
(取材・文 田村民子) *全3回
歌舞伎座から歩いて約10分。新富町の静かな裏通りに提灯作りを生業としている柏屋商店があります。創業は江戸時代後期の文政年間。当時、芝居町として賑わった浅草猿若町にあり、江戸三座(公式で歌舞伎興行が行える芝居小屋)のひとつである森田座(後に守田座と改称)の出入り職人となります。歌舞伎座との付き合いは第一期が開場した明治22年から。歌舞伎座で目にする提灯は、大道具が扱うものと小道具が扱うものがありますが、それぞれ店が異なり大道具及び劇場関係の提灯は柏屋商店が担当しています。
ここで提灯を作っているのは上野三郎さん。昭和15年のお生まれで、小学校低学年から父親の手伝いをはじめ、高校を卒業してから本格的にこの道に入りました。店を継いでいた兄が亡くなり、26歳で五代目主人として家業を継ぎます。現在、東京で劇場、大道具用の提灯を製作する唯一の店であり、上野さんはたったお一人で仕事をこなしています。
歌舞伎座の提灯というと、すぐに思い浮かぶのは正面入り口の上に並ぶ赤い提灯です。数えてみると18個。それから歌舞伎座の前に飾られる絵看板(演目ごとに描かれる肉筆画で、主な登場人物が配されている)の上にも提灯が吊されています。こちらは1列12個。これが2つありますから合計24個。客席やロビーなどの場内も含め、歌舞伎座が新開場する際は、約350個もの提灯が新調されました。
江戸の提灯作りは分業制。提灯本体の製作は別の職人が行い、上野さんは主に絵付けを担当しています。注文が入ってから提灯本体の製作を依頼していては間に合わないため、あらかじめ仕入れておきます。そして、刷毛や筆を使って手作業で色を塗り、文字や紋を入れていきます。
劇場の紋を「座紋」といいます。歌舞伎座は「鳳凰丸(ほうおうまる)」で、口上などでも座紋入りの提灯が飾られ舞台を盛り立てます。ずらっと並んだ提灯はいずれも判で押したように同じに見えるので、ステンシルのような型紙を使っているのかと思いきや、ひとつひとつ手描きとのこと。型紙を作ったほうが早いのでは?と愚問を投げかけると「場合によっては型を作ることもあるけど、提灯の表面は球体でカーブしているから面倒。型を作るのに1日とられちゃうでしょ。手で描いたほうが早いですよ」と、言い切ります。1日かけても型を作ったほうが効率がいいのではないか…、というのははやり素人の発想なのでしょう。以前、高名な文化人類学者の川田順造さんが世界各国の職人の仕事のやり方を比較して、「西洋では大げさな道具を作って誰がやってもできるようにしたがる。それに対し、日本の職人は道具なしで手でさっさとやってしまう」と言われていましたが、それを立証するかのような言葉でした。
ちなみに1日で作れる数は、客席に吊されている提灯の場合は、5〜6個を仕上げるのがやっと。サイズの大小でみると、小さな提灯に細かい図案や文字を書くよりも、時間はかかるが大きな提灯のほうが仕事としては手が楽とのことでした。(その2へ続く)
歌舞伎座の大道具を支える職人 提灯 その2
http://kabukizabutai.co.jp/saisin/tokusyuu/276/
歌舞伎座の大道具を支える職人 提灯 その3
http://kabukizabutai.co.jp/saisin/tokusyuu/286/
その1 魔脅し
これは『俊寛』に登場する赦免船などの船首を飾る房で「魔脅し(まおどし)」と呼ばれるものです。写真の右は『俊寛』に使うもので、左側は『俊寛』よりも大きな船(御座船)に用います。この「魔脅し」は、一般では「さがり」「かもじ」と言うこともあるようです。
「かもじ」とは髪の毛のこと。たしかに色が黒なので髪の毛に似ていますね。これには逸話があって、昔、海が荒れた時に海の神を鎮めるために人柱の代わりに髪の毛を切って海に投げ入れたと言われています。「魔脅し」もその名残なのでしょう。航海の安全を祈る昔の人の心が芝居の世界にも投影されています。
『俊寛』は、6月の歌舞伎座の公演で上演されます。
歌舞伎座新開場 杮葺落六月大歌舞伎
平成25年6月3日(月)~29日(土)
http://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/2013/06/post_57-ProgramAndCast.html
「道具帳」ができるまで
大道具の仕事の裏側は、普段はなかなかお客様の目に触れることがありません。私たち裏方は本来は陰に徹するものであり、舞台の裏側をお見せすることで「舞台の輝き」を失わせることがあっては本末転倒です。しかし、大道具に関心を寄せてくださるお客様、これから大道具で働いてみたいと思われる方々に、先人の知恵の詰まった仕事の詳細や創意工夫をしながら常に新しく変化していく様子を知っていただけたらとも思っております。これから、少しずつ私たちの仕事についてもこのWebサイトでお知らせしていきたいと思っております。
第一回は、「道具帳(どうぐちょう)」ができるまでをご紹介します。
道具帳とは、舞台を真正面から見たときの完成図のようなもので、1/50の縮尺で場面ごとに1枚ずつ筆で描いていきます。今回は、歌舞伎座の「八月納涼歌舞伎」(平成25年8月)に上演される『色彩間苅豆(いろもようちょっとかりまめ)』(通称かさね)の道具帳を作る過程をご紹介します。道具帳を描いているのは、弊社デザイン課の田淵宜孝です。
デザイン課 社員紹介 田淵宜孝のインタビューもぜひご覧ください。
http://kabukizabutai.co.jp/recruit/interview/design.html
「歌舞伎座新開場柿葺落 八月納涼歌舞伎」平成25年8月2日~24日
http://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/2013/08/post_62.html
【1】線描き
黄色い縁取りに見えるのは、マスキングテープです。平面図、書抜き(製作図面)をもとに正確な寸法で線描きをします。
視点は歌舞伎座の客席2階の前列くらい。少し見下ろす感じです。背景の地平線(水平線)の高さに注意して、描いていきます。
【2】塗込み1(遠景)
まずは遠景から塗り始めます。今回は空をぼかして塗っていますが、照明で処理することもあります。
山の色は、空気遠近法によって遠い山を薄い色にしています。同様に、田圃や森も遠くが明るくなるようにしています。ぼかしは、筆とエアブラシを使い分けています。
【3】塗込み2(中、近景)
木地の色、土手、ヤブなどの緑色を入れていきます。水車小屋や橋、水門はムラがあっても大丈夫なので(後で仕上げの調子を付けるから)下描きの線が見えるくらい薄く塗ります。
この演目は舞踊なので(実際には所作舞台を敷くので)、地舞台よりきれいにしています。ちなみに地舞台の芝居の場合は、これよりも少し濃くし、板目を書く事もあります。
【4】塗込み3(スミなど濃いめの色)
黄色いマスキングテープがはがされて、だんだん最終形に近づいてきました!
土手は塗りぼかしていますが、更に代赭(たいしゃ)という色でぼかしを入れます。代赭とは、赤土から採れる赤鉄鉱を原料とする黄褐色または赤褐色の顔料のことです。
樹木は黒の上に下地の濃い緑色を重ねています。それから舞台の額縁上部の「一文字幕」などの黒い色も塗ります。
【5】仕上げ1
遠景の樹木、たんぼの畝、土手、ヤブ、それから近景の樹木の葉を描き込んでいきます。土手の襞(ひだ)や草のひげ、水車小屋などの細かい部分も手を入れています。
【6】仕上げ2
青もみじ、柳、河原なでしこを描き込みます。これまで橋のたもとに傍示杭(ぼうじぐい:境界のしるしに建てられた標柱のこと)を描き入れていたのですが、演者によって位置が変わるので、それを考慮して枠外に変更しました。最後に陰影を入れ全体の色調を整えて、完成です。
***
これ1枚でだいたい4〜5日くらいかかります。実際の舞台では照明もありますので、それも考慮しながら描きます。そして、この道具帳を元にして役者さんや演出家、振り付けの方との打合せをします。
道具帳を描くとひと口に言っても、やり方は1つではなく時と場合によって紙や画材が異なります。
日本画出身の人が描く場合は、和紙に絵の具がにじまないようにするために陶砂(どうさ:みょうばん水ににかわを溶かしたもの)を引いて、顔料(粉の絵具)を使って描きます。
今回ご紹介しているものも含め、歌舞伎座ではだいたいワトソン紙に主にアクリル系の絵の具で描いています。水に強く(濡れても大丈夫!)年月が経っても変色しにくいからです。しかし、部分によって代赭や緑青などの顔料も使います(道具帳は飾って眺めるものではなく、現場で働く絵なのです)。
実際に舞台の背景を描く時は、通常は布に泥絵具(どろえのぐ)で描きます。歌舞伎座の背景は通常(道成寺やかさねなど)はおおよそ縦4.5メートル、横30メートル、面積にすると135平方メートルという大きなものになります。泥絵具は、粘土などを顔料とした濁った絵の具のことで、大道具の世界では古くから使われてきました。粒子が粗いので、舞台にのせて照明を当てたときに乱反射を起こします。そのなんともいえない雰囲気が歌舞伎独特の照明に合うのです。
道具帳ができるまでのご紹介、楽しんでいただけましたでしょうか。今後もこのような特集記事を掲載していきたいと思っています。これからもどうぞよろしくお願いいたします。
※無断複写、転載を禁ずる。