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歌舞伎座の大道具を支える職人 提灯 その2

歌舞伎座の大道具の提灯を作っている柏屋商店の上野三郎さんにお話をうかがいながら、提灯について深く知るための連載記事の2回目です。その1をご覧になっていない方は、こちらもご覧ください。
(取材・文 田村民子)*全3回

柏屋

上野三郎さんのお仕事場。歌舞伎座の座紋「鳳凰丸」が入った赤い場吊提灯が目をひく。

さて、いよいよ歌舞伎の舞台に登場する提灯についてお話をうかがいます。
歌舞伎の演目ではさまざまな提灯が登場しますが、裏方の分類でみると2系統あり、屋体の軒につり下げる提灯などは大道具、俳優が手に持つものなどは小道具が手配します。大道具が扱う提灯で登場頻度の高いものは、やはり赤い丸い提灯です。

二寸弧

『於染久松色読販』(左)『籠釣瓶花街酔醒』(右)

『於染久松色読販』と『籠釣瓶花街酔醒』の提灯を見てみましょう。図案は異なりますが、サイズは同じです。上野さんによるとこの提灯は一括して「二寸弧(にすんこ)」と呼ぶそうです。その名称の付け方がいかにも職人らしい。大道具の世界同様に尺貫法(尺、寸など日本古来の長さなどの単位)を用いた表現ですが、二寸といっても実は一尺二寸(約36センチ)。一尺は入れなくても一尺以上というのは見て明らかなので端折っているのです。では、どこの長さかというと火袋(ひぶくろ)と呼ばれる丸い部分の縦の長さを示しています。そして形が丸いものを「弧」と称しているのでしょう。あまたあるであろう多品種の提灯から区別するのに過不足ない呼称です。こうした名前の付け方は職人にとっては、なんということもないことかもしれませんが、古い呼び名には味があり外の世界の者には興味深く感じられます。

場吊提灯

場吊提灯

上野さんが「うちと歌舞伎の大道具でしか通じない名称」という歌舞伎ならではの提灯があります。それは場吊提灯(ばづりちょうちん)。襲名披露や『お祭り』、『暫』などの舞台に飾られるもので、俳優や劇場の紋が入ります。もちろんこれらの紋は上野さんの手描き。型紙などを使わず目見当で描いていくため、複雑な紋は時間がかかります。ひとつひとつ疎漏のないように仕上げていきます。おもしろいのはその形です。客席から見ていると普通の提灯に見えますが、実は後ろは平らで半丸なのです。近くで見ると納得するのですが、かなりの大きさがあるため、これが球体であるのと半丸であるのとでは収納スペースにかなりの差がでます。観客には関係ない話ではありますが、大道具が扱うものはまさに道具が大きく、かつ一日に沢山の演目が出るため収納を工夫しなくてはいくら空間があっても足りません。そういう意味で、半丸の場吊提灯はすぐれものといえます。

場吊提灯

場吊提灯。横から見ると、半丸であることがわかる。

さて、どうやってこの形を作っているかというと、普通の提灯を上野さんがはさみでジョキジョキと半分に切っているのです。野暮を承知で、アタリの線を引くんですか?とたずねてみると「勘ですよ。どんどんやらなきゃ納期に間に合いませんよ」。とにかく時間との戦いのようです。

大道具

大道具の絵描きが描いた提灯(2013年6月歌舞伎座公演『鞘當』)

少し余談になりますが、歌舞伎の大道具の「絵描き」が描いた絵の提灯もあります。この提灯の裏側には照明が仕込んであり、ほんのりと明るくなるようにしてあります。これを「灯入れ(ひいれ)」といいます。これにはちょっとした工夫があって、白い柄の部分は光が透過するように蝋(ろう)で描いてあります。熱してゆるくした蝋が固まらないうちに、さっと手早く描かなくてはなりませんので高い技量が必要です。芝居の仕事というのは、うまいだけではダメで、いずれも「いかに早くこなすか」が重要なのです。(その3へ続く)

「絵描き」の仕事について
http://kabukizabutai.co.jp/daiichi_bijyutsu/

歌舞伎座の大道具を支える職人 提灯 その1
http://kabukizabutai.co.jp//saisin/tokusyuu/203/

歌舞伎座の大道具を支える職人 提灯 その3
http://kabukizabutai.co.jp/saisin/tokusyuu/286/

2013/06/13
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