360年、毎日が創意工夫 歌舞伎座舞台株式会社360年、毎日が創意工夫 歌舞伎座舞台株式会社

 

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歌舞伎の造花について深く知るための連載記事の3回目です。その1その2もぜひご覧ください。
(取材・文 田村民子)

花善

花善が手掛けた造花。左から山吹、紅梅、白梅。

花善では多種多様の造花を作っていますが、どんな体制で仕事をされているのでしょうか。前回に引き続き株式会社酒井造花製作所(花善)の社長・酒井克昌さんにお話をうかがいます。まずは克昌さんの役割ですが、大道具とのやりとりから全体の差配、染めや型抜きなどを担当しています。そして、出来上がった花びらや葉を針金やテープなどでひとつの植物の形に仕上げる作業は、克昌さんの奥様の智代さんをはじめ女性陣が引き受けています。

花善

(左・中)4人の女性で手際よくアヤメの花を仕上げる。(右)『浮舟』の舞台のアヤメ。

取材でうかがった日は、アヤメの仕上げ作業をされていました。アヤメの造花は『伊達の十役』や『浮舟』、舞踊などで使われます。アヤメの花びらをよく見ると、平坦ではなくうねったような微細な立体感があります。こうしたデリケートな質感も、手作業。智代さんの説明によると、花びらを染めた後、まだ湿っている状態のときに手拭いにはさみ、手でぐいっとしごくようにしてうねりをつけるとか。使う道具は手拭いだけ。手先に染みこんだ技量で、花に命が吹き込まれていきます。

『藤娘』の道具帳。

『藤娘』の道具帳。

歌舞伎の数ある演目のなかで、花の印象が強いものといえば、舞踊『藤娘』が思い浮かびます。照明を落として真っ暗闇のなかで静かに幕が開き、一瞬で明るくなると、舞台いっぱいに大きな藤の花が咲き誇っているという胸のすくような演出。客席からも、思わずうわーという声がこぼれます。この演出は、昭和12年に六代目尾上菊五郎が『藤娘』を踊るにあたり一新させたもので、藤を極端に大きくスケールアウトさせることで踊り手の身体を可憐に小さく見せるというねらいがあったとされています。

花善

(左)紙で作られた藤の造花。藤の花らしい、色と質感と形。花弁の広げ方によっても、表情が異なる。(右)『藤娘』の舞台写真。

この藤の花の作り方について克昌さんに再びお話をうかがいます。藤の花弁は白地を残して紫に染め分け、やわらかな質感を表現しています。花の房は一番長いものでは15尺(約4.5m)もあるそうで、上から下にいくに従ってだんだん花弁が小さくなっていきます。この花弁を作るために大きさの異なる抜き型が7個も必要とのことでした。花弁は紙で作られていましたが、近年の歌舞伎では布が主流となっているそうです。

こうして歌舞伎の造花に関わる現場を辿ってみると、想像以上に手間をかけて歌舞伎にふさわしいものを作り上げていることに驚かされます。造花を作る酒井克昌さんも、歌舞伎の舞台でそれを形にする大道具の西村健次さんも、いかにもたくましい男性なのですが、繊細な精神で仕事に向かっておられる姿に心惹かれるものがありました。

花善

後日、観劇したとき。舞台の隅になにげなく置かれた花木に、そこはかとなく余情が漂っているように感じました。きっと作り手の方々は「そこに注目されるのは本末転倒」とおっしゃるのだと思いますが、小さなところにも想いを込めた仕事があることを知った上で眺める舞台には、それまでとは異なる愛着が涌きます。つつましやかな歌舞伎の造花の職芸がこれからも深まり、継承発展していくことに期待します。(完)

*「連載 歌舞伎座の大道具を支える職人」は、今後もさまざまな職人さんに光を当ててまいります。お楽しみに!

*舞台写真や道具帳などの色味は、ブラウザによって見え方が異なる場合があります。予めご了承ください。

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2013.08.20
大道具の道具

その4 障子

歌舞伎には「障子(しょうじ)」がよく出てきます。下の写真は『野崎村』の屋体(やたい:家などの建物)です。ここで障子に注目してみてください。

障子

一般の家の障子の骨は室内側に向いています(ご家庭に障子のある方は確認してみてください)。ところが歌舞伎の屋体では、外側に障子の骨が見えています。事実と照らし合わせると間違っている、ということになりますが、このほうがひと目で見て障子があることがわかり、それらしいということで古典作品の場合はあえてそのようにしています。一方、『狐狸狐狸ばなし』などの新しい演目では、現実世界にならって障子の骨は室内側を向いています。

おまけ:写真の右奥では、造花の担当者が梅の木の仕上げをしています。「造花」についての連載記事もありますので、ぜひご覧ください。

造花の連載記事(全3回)
http://kabukizabutai.co.jp/saisin/tokusyuu/369/

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2013.08.14

歌舞伎の造花について深く知るための連載記事の2回目です。その1をご覧になっていない方は、こちらもご覧ください。
(取材・文 田村民子)

花善

(左)酒井造花製作所(花善)の玄関。(中)お仕事場には色とりどりの造花がたくさん。手がける造花の種類は100種類をゆうに超えるという。(右)花善社長の酒井克昌さん。

酒井造花製作所、通称・花善(はなぜん)は、東京都北区の静かな住宅街のなかにあります。ドアを開けるとすぐにお仕事場になっており、色とりどりの造花がところ狭しと並んでいます。部屋全体がふわっと明るい雰囲気で、思わず心が浮き立ちます。さっそく社長の酒井克昌さんにどのような手順で造花を作られているのか、うかがってみました。

酒井さんによると、作り方には主に2パターンあるそうです。1つ目は、白い紙をクッキーの抜き型のようなもので抜いてから染めて色を付ける方法。たとえば藤の花のように1枚の花びらのなかで白と紫で色のグラデーションをつける場合などは、こちらのやり方にします。2つ目は、色をつける順序が逆で、まず刷毛などで紙の両面に色をつけてから、型で抜くというやり方です。ものによって狙う色のトーンが細かく異なるため酒井さんが慎重に色味を検討しています。

花善

(左)型を抜く機械。(中)抜き型。銀杏、桜、紅葉、葉などの他、たくさんの種類の抜き型があった。手に持つとずっしりと重い。(右)菊の葉の抜き型。葉の大きさは2種類ある。

花善

(左)色を染める作業場。(右)染め上がった桜の造花。手仕事ならではの微妙な表情がある。

造花のひとつひとつを間近で見ると、実物よりもうんと大きかったり、花びらの形も随分異なったりしていることに気付きます。でも、不思議なものでパッと見ると、どの花かすぐにわかります。酒井さん曰く、「歌舞伎の造花は、それらしく見えること、芝居の雰囲気に合っていることが大事」。それを具体的な形に落とし込んでいるのが酒井さんのお仕事なのですが、話をうかがってみると想像以上に細かく作り分けていることがわかります。

たとえば花びらや葉の素材は、演目や場面に応じて模造紙や半紙、薄い和紙、布など繊細に使い分けています。舞台用の造花は近くで見るものではないので、素材の質感にそれほどこだわらなくてもよいのではないか…と素人は考えてしまいますが、やはり人間の眼は知らず知らずのうちにディティールの差を見分けてしまうもの。質感へのこだわりが、造花の質をあげているのです。

花善

(左)古典歌舞伎などで使われる桜。これは大道具に納品された状態のままの束。枝は本物の桜なので、1本1本に個性がある。(右)『ぢいさんばあさん』などの新歌舞伎では古典歌舞伎よりも写実に近い造花が使われる。

お話をうかがっていて興味深かったのは、枝へのこだわりです。たとえば桜の花には、本物の桜の枝を植木屋から仕入れて用います。枝はソメイヨシノではなくヤマザクラのほうが、色などがふさわしいとのこと。また、しだれ桜にするための造花では、本物の柳の枝を使うそうです。(しだれ桜は『喜撰』などに登場します)。だれもが知っている桜などの植物は、少しでも違和感があるとニセモノ感が漂ってしまいます。歌舞伎の花々は写実でもなく、虚飾でもない、本物を超越した魅力があります。その秘密の一端を垣間見たような気がしました。

*次回は、『藤娘』の藤の花などについてお伝えします。お楽しみに!

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2013.08.02

造花。だれもが知っている言葉ですが、
歌舞伎の「造花」を知る人はあまりいらっしゃらないと思います。
舞台の背景を彩る花々には専門の世界があり、
熱意をもって仕事をしている人がいます。

(取材・文 田村民子) *全3回

歌舞伎には屋外の自然風景が実に多く出てきます。たとえば『京鹿子娘道成寺』の満開の桜の山や、『白浪五人男』で五人男が勢揃いする川べり、『野崎村』ののどかな田舎の風景など。それに屋内の場面であっても、背後に山や田んぼ、海などの風景が広がっていることが多く、どこかしらに自然の気配が漂っています。こうした自然風景には、花や木などの植物が欠かせません。歌舞伎の「造花」は情景にきれいに溶け込んでいますので、私たちはとりたてて意識することはありませんが、実は繊細な演技をしているようです。

『京鹿子娘道成寺』の道具帳

『京鹿子娘道成寺』の道具帳

 

道成寺

この舞台の場合は、下手側の桜の木と舞台上部の「吊り桜(糸桜)」に桜の造花が使われている。

今回ご紹介するのは、歌舞伎をはじめ舞台用の造花を専門で作っている株式会社酒井造花製作所です。創業は大正12年。江戸三座(公式で歌舞伎興行が行える官許の芝居小屋)のひとつである市村座で大道具の仕事をしていた酒井善次郎が独立したことにはじまります。花を作る善次郎さんが作ったということで「花善(はなぜん)」という名で通っており、現在は孫にあたる克昌さんが社長として仕事を受け継いでいます。花善では、初代同様に大道具の仕事を経験してから家業に入ることが慣例となっており、克昌さんも大学卒業と同時に大道具の仕事に就き経験を積んだそうです。

花善

(左)仕事場にかかげられている酒井造花製作所(花善)の看板。(右)社長の酒井克昌さん。

造花が舞台に出されるまでには花善と大道具の連携が必要です。たとえば桜の木の場合は、花善が花のついた枝の状態まで仕上げて納品し、それを受け取った大道具の担当者がベニヤ板などで作った幹に枝を1本ずつ打ち付けて、ひとつの木の形に仕上げます。

造花製作のお仕事場を拝見する前に、まずは歌舞伎のなかでどんな風に「造花」が使われているのかを、おさらいしたいと思います。歌舞伎座の大道具のなかには、舞台に使う花や木、草などを専門で扱う担当者がいます。現在、メインで担当している西村健次さんに、一般の人が理解しやすいように舞台に登場する造花(花や葉など)を分類していただきました。

花善

(左)舞台用の松を作っている西村健次さん(歌舞伎座舞台株式会社・舞台課)。入社以来18年間、造花一筋。熱心な学究肌で、造花の仕事を追求するため仕事をしながら通信制の芸術大学でランドスケープの勉強も積んだという。(右)「土手もの」のやぶを作っているところ。

【歌舞伎に登場する造花類のおおまかな分類】

(1)舞台の上部にのれん状に吊ってある「吊り枝」
桜や紅葉、梅などの造花が使われる。

(2)桜の木など、1本で自立している樹木
桜や梅、紅葉、柳などの造花が使われる。
(松は造花ではなく、本物を使うことが多い)

(3)草や菊など、まとまった状態で床に置く「土手もの」
草、菊、アヤメ、アシなどの造花が使われる。
(登場頻度の高い笹のやぶは、本物の笹を使う)

花善

紅葉狩』の道具帳。上記で紹介した(1)(2)(3)の全てが登場。(1)舞台の上に紅葉の造花で作られた「吊り枝(つりえだ)」。(2)中央の松とその右隣の紅葉の木は、絵ではなく立体で紅葉の葉は造花。(3)土手ものの菊が数カ所、置かれている。

花善

(2)自立した樹木の例:(左)桜の木『鞘當』仲之町(中)青紅葉の木『忍夜恋曲者 将門』(右)紅梅の木『野崎村』

花善

(3)土手ものの例:(左)秋草『浮舟』(右)菊『菊畑』

造花に携わる大道具の仕事は、植物本来の枝の付き方などの生物学的な知識を持つことはもちろん、歌舞伎独特の美意識に沿う視点で形をつくるセンス、そして大道具の道具としての扱いやすさを考慮するなど、さまざまな感覚と技術が必要です。桜の木を作る場合を例にとってみると、『白浪五人男 稲瀬川勢揃い』のように1本ずつがバラバラに配置される場合と、吉原・仲之町の春の景色で舞台中央に桜がまとまって咲いている場合では、同じ桜でも枝の打ち付け方を違わせなければならないといいます。素人から見ると微少な差ですが、その場にふさわしいシルエットを緻密に計算し、繊細に作り分けているのです。

『白浪五人男 勢揃いの場』

『白浪五人男 勢揃いの場』

歌舞伎の大道具すべてに言えることですが、歌舞伎に登場する花や木は、作り手の歌舞伎の美意識のトンネルを通過して、本物らしさと様式美の両方を備えた姿となって舞台に出されています。造花を作る酒井さん、そして舞台のために形を整える大道具の両方の仕事が優れているからこそ、造花たちは歌舞伎の花へと転じて舞台に溶け込んでいるのです。(その2へ続く)

*次回は、いよいよ花善さんのお仕事場を訪問します。お楽しみに!

*舞台写真や道具帳などの色味は、ブラウザによって見え方が異なる場合があります。予めご了承ください。

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2013.07.24

明日、7月13日(土)から歌舞伎座ギャラリ−(歌舞伎座タワー5階)にて、「歌舞伎の夏 色彩と音」展がはじまります。私たち大道具も、小さな松羽目の舞台を作るなど展示に参加いたしました。また、壁や天井に水、波、空などの涼しげな色合いをふんだんに使った背景も制作し、少しでもお客様に涼味を感じていただけるようにしております。
この歌舞伎座ギャラリーは、衣裳や小道具なども展示され、間近でさまざまなものをご覧いただくことができます。ぜひおでかけくださいませ。

歌舞伎座ギャラリー内の舞台に合わせて、新たに製作した松羽目の舞台。歌舞伎座の舞台の約2分の1のサイズ。

 

さまざまな「道具帳」から水にまつわるモチーフを選び、コラージュしています。

●「歌舞伎の夏 色彩と音」展覧会概要

開催期間
2013年7月13日(土)~9月1日(日)
※会期中無休

開館時間
10:00~18:00(最終入館は17:30まで)
※7月21日(日)は12時開館

入場料
一般:500円(小学生未満無料)
団体:400円(20名様以上)

歌舞伎座ギャラリーについての詳しい情報やお問い合わせ先については以下をご覧下さい。
松竹株式会社 歌舞伎座ギャラリー
https://www.shochiku.co.jp/play/kabukiza/gallery/

歌舞伎美人ニュース
歌舞伎座ギャラリー「歌舞伎の夏 色彩と音」展のご案内
http://www.kabuki-bito.jp/news/2013/06/post_828.html

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2013.07.12

今日は歌舞伎座の舞台にて「舞台安全祈願修祓式」が執り行われました。7月の公演では『加賀見山再岩藤』、『東海道四谷怪談』が上演されるため、鐵砲洲稲荷神社の宮司さんをお迎えしてその安全をお祈りいただき、俳優さんをはじめ公演関係者がお参りをしました(大道具も参列しております)。

また『東海道四谷怪談』については、お岩様の霊をなぐさめ舞台の安全を祈るために出演者など舞台の関係者がお岩様に関わりのある寺社に参拝するのが習わしとなっています。今回も、6月21日に巣鴨にある妙行寺、四谷の田宮神社と陽運寺への参拝が行われました。

田宮神社から授かったお札は、大道具控室や舞台の各所に貼らせていただいています。

大道具では、今日から本格的に7月公演の準備に入りました。1カ月間、私たちも事故のないように仕事を勤めたいと思っております。

関連ニュース
歌舞伎美人「菊之助が於岩稲荷で成功祈願」
http://www.kabuki-bito.jp/news/2013/06/post_831.html

歌舞伎座新開場柿葺落「七月花形歌舞伎」
http://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/2013/07/post_61.html

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2013.06.30

歌舞伎座の大道具の提灯を作っている柏屋商店の上野三郎さんにお話をうかがいながら、提灯について深く知るための連載記事の最終回です。その1その2もぜひご覧ください。
(取材・文 田村民子)

看板

上野三郎さんのお仕事場。仕上げた提灯を天井から吊しておくのは、表面に塗った油を乾かすため。

提灯は火袋と呼ばれる中央部をつぶして小さくすることができます。使わないときは品良く収納したいというのは日本人の美点であり、提灯はそれを体現した道具のひとつといえます。しかし、それゆえ作る方に手間がかかります。なにしろ軸がないわけですから、ふわふわと不安定。上野さんのように形ができあがった後に手で文字や図案を入れていく人にとっては、本来は厄介なはずです。一体、どうやって仕事をしているのでしょう。

つっぱり

左:使い込まれて、いい飴色になっている「つっぱり」。右:つっぱりを持っておられるのが上野三郎さん。提灯の大きさに合わせて、さまざまな長さがある。

 

はけ

火袋につっぱりを張ったところ。右は色を塗るための刷毛。

実は、火袋の内側につっかい棒のようなものを入れて、張りをもたせて仕事をしているのです。これは「つっぱり」と呼ばれる竹の棒で、上野さんのお手製。1つの提灯に3本のつっぱりを用います。実際につっぱりを入れるところを見せていただきましたが、ちょっと加減を間違うと火袋を突き破ってしまいそうで、おいそれと素人が真似できるものではありません。しかも、つっぱりで張りをもたせているとはいえ、この状態で色を塗ったり、文字や図案を描いたりするには、なんとも心許ない感じです。当たり前ですが、長い修練を経なければ、仕事ができません。

ひごに型をつけるための道具。半円の端に溝が刻まれている。型をつけた後は、提灯の口から抜いて取り出す。

ひょんなことから提灯の形を作るための貴重な用具も拝見しました。火袋の骨になる細い「ひご」をあの丸い立体にするために、くせをつける道具があるというのです。今は上野さんがこれを使うことはないそうですが、大切にしまっておられたものをわざわざ探し出して見せてくださいました。それは木製の8枚の板で、これを円状に広げると火袋の形になります。周縁にはひごを沿わせるための溝が刻んであり、その溝にそって1本のひごを螺旋状に巻きつけ、くせをつけるというのです。螺旋状にするということは1枚ずつの溝の位置がずれているということ。8枚の板の形は微妙に異なるため、並び順が狂うとひごが流れていきません。板に書かれた番号を見ながら、上野さんが並び替えていきます。今ではこうした木製の型を使うことはほとんどないとのことで、貴重な資料です。

提灯作成図

上野さんは快活なお人柄で、腰も軽く大変お元気そうですが、大きな病気を抱えておられるとのことでした。歌舞伎の仕事は月によって仕事量も異なり、ことに月の後半はスケジュールが厳しくなることが多いといいます。歌舞伎の仕事を存分にやり抜くために、他はあまり取らないという姿勢を貫いてこられた上野さん。しかし、「仕事を引き受けたのに、もしも病気などで納期に間に合わないということがあっては、申し訳ない」と、今後については思案中とのことでした。提灯づくりに生涯を捧げてきたからこそ、自分を偽れないのかもしれません。

職人の世界は膨大な時間をかけて身体に技をたたき込むもの。そうして身体化された記憶に基づく技の伝承は容易ではありません。こうした課題は、歌舞伎を支えるものづくりの世界ではあちこちに散見され、実効ある対策が待たれるところです。歌舞伎座の大道具でも場吊提灯の部材作りの一部を引き受けるなど、一歩踏み込んだ連携を模索しつつ、現場レベルでの解決策を探っています。

歌舞伎座
提灯ひとつにも、深い物語がしみ込んでいます。歌舞伎座の大道具はこうした道具を作る人に支えられながら仕事をしています。今度、歌舞伎座にお出かけになったら、まずは玄関で上野さんの手が触って生み出した提灯をたっぷり愛(め)でてみてはいかがでしょうか。(完)

イラスト作成:歌舞伎座舞台(株)デザイン課

歌舞伎座の大道具を支える職人 提灯 その1
http://kabukizabutai.co.jp/saisin/tokusyuu/203/

歌舞伎座の大道具を支える職人 提灯 その2
http://kabukizabutai.co.jp/saisin/tokusyuu/276/

*「歌舞伎座の大道具を支える職人」は今後、シリーズ展開してまいります。これから、さまざまな職人さんをご紹介する予定です。お楽しみに!

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2013.06.26
大道具の道具

その3 梅の立木

梅の立木

これは「梅の立木(たちき)」と呼ばれる道具で『壽曽我対面』などさまざまな演目に登場します。手前が紅梅、後ろは白梅。花の部分は紙で作られた造花で、幹にひとつひとつ打ち付けて作ります。歌舞伎の舞台には桜、藤、菊、紅葉などさまざまな花木が登場しますが、それらは「造花」の担当者が材料を手配し、製作しています。

梅

造花は歌舞伎座課の社員が受け持ちます。「転換」と呼ばれる仕事をしながら、造花にまつわるさまざまな仕事を行います。

歌舞伎座課の社員インタビュー
http://kabukizabutai.co.jp/kabukiza/

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2013.06.21

テレビ朝日「徹子の部屋」にて、歌舞伎座の大道具の仕事場が紹介されます。取材では、黒柳徹子さんが背景画を描く作業を見学される様子などを撮影されていました。よろしければご覧いただけましたら幸いです。

番組名:「出張!徹子の部屋 パート5 夢トーク豪華3本勝負 お宝映像も大放出スペシャル」
放送予定日時: 2013年7月4日(木)19:00 ~ 21:48

番組内容(テレビ朝日番組表より抜粋して転載)
▼超豪華俳優が勢揃い!新生・歌舞伎座 巡り!
今年4月に生まれ変わった話題の歌舞伎座へ。歌舞伎座の楽しみ方はもちろん、めったに見ることのできない裏側まで潜入取材。花形俳優から人間国宝まで歌舞伎スターが続々登場!貴重映像も交え“歌舞伎の世界”を大公開!

番組ホームページ http://www.tv-asahi.co.jp/tetsuko/

背景画を描く仕事をしているのは「第一美術課」です(以下のページは社員インタビュー)。
http://kabukizabutai.co.jp/daiichi_bijyutsu/

*番組の都合により放映日時が変更になる場合があります。予めご了承ください。

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2013.06.19

歌舞伎座の大道具の提灯を作っている柏屋商店の上野三郎さんにお話をうかがいながら、提灯について深く知るための連載記事の2回目です。その1をご覧になっていない方は、こちらもご覧ください。
(取材・文 田村民子)*全3回

柏屋

上野三郎さんのお仕事場。歌舞伎座の座紋「鳳凰丸」が入った赤い場吊提灯が目をひく。

さて、いよいよ歌舞伎の舞台に登場する提灯についてお話をうかがいます。
歌舞伎の演目ではさまざまな提灯が登場しますが、裏方の分類でみると2系統あり、屋体の軒につり下げる提灯などは大道具、俳優が手に持つものなどは小道具が手配します。大道具が扱う提灯で登場頻度の高いものは、やはり赤い丸い提灯です。

二寸弧

『於染久松色読販』(左)『籠釣瓶花街酔醒』(右)

『於染久松色読販』と『籠釣瓶花街酔醒』の提灯を見てみましょう。図案は異なりますが、サイズは同じです。上野さんによるとこの提灯は一括して「二寸弧(にすんこ)」と呼ぶそうです。その名称の付け方がいかにも職人らしい。大道具の世界同様に尺貫法(尺、寸など日本古来の長さなどの単位)を用いた表現ですが、二寸といっても実は一尺二寸(約36センチ)。一尺は入れなくても一尺以上というのは見て明らかなので端折っているのです。では、どこの長さかというと火袋(ひぶくろ)と呼ばれる丸い部分の縦の長さを示しています。そして形が丸いものを「弧」と称しているのでしょう。あまたあるであろう多品種の提灯から区別するのに過不足ない呼称です。こうした名前の付け方は職人にとっては、なんということもないことかもしれませんが、古い呼び名には味があり外の世界の者には興味深く感じられます。

場吊提灯

場吊提灯

上野さんが「うちと歌舞伎の大道具でしか通じない名称」という歌舞伎ならではの提灯があります。それは場吊提灯(ばづりちょうちん)。襲名披露や『お祭り』、『暫』などの舞台に飾られるもので、俳優や劇場の紋が入ります。もちろんこれらの紋は上野さんの手描き。型紙などを使わず目見当で描いていくため、複雑な紋は時間がかかります。ひとつひとつ疎漏のないように仕上げていきます。おもしろいのはその形です。客席から見ていると普通の提灯に見えますが、実は後ろは平らで半丸なのです。近くで見ると納得するのですが、かなりの大きさがあるため、これが球体であるのと半丸であるのとでは収納スペースにかなりの差がでます。観客には関係ない話ではありますが、大道具が扱うものはまさに道具が大きく、かつ一日に沢山の演目が出るため収納を工夫しなくてはいくら空間があっても足りません。そういう意味で、半丸の場吊提灯はすぐれものといえます。

場吊提灯

場吊提灯。横から見ると、半丸であることがわかる。

さて、どうやってこの形を作っているかというと、普通の提灯を上野さんがはさみでジョキジョキと半分に切っているのです。野暮を承知で、アタリの線を引くんですか?とたずねてみると「勘ですよ。どんどんやらなきゃ納期に間に合いませんよ」。とにかく時間との戦いのようです。

大道具

大道具の絵描きが描いた提灯(2013年6月歌舞伎座公演『鞘當』)

少し余談になりますが、歌舞伎の大道具の「絵描き」が描いた絵の提灯もあります。この提灯の裏側には照明が仕込んであり、ほんのりと明るくなるようにしてあります。これを「灯入れ(ひいれ)」といいます。これにはちょっとした工夫があって、白い柄の部分は光が透過するように蝋(ろう)で描いてあります。熱してゆるくした蝋が固まらないうちに、さっと手早く描かなくてはなりませんので高い技量が必要です。芝居の仕事というのは、うまいだけではダメで、いずれも「いかに早くこなすか」が重要なのです。(その3へ続く)

「絵描き」の仕事について
http://kabukizabutai.co.jp/daiichi_bijyutsu/

歌舞伎座の大道具を支える職人 提灯 その1
http://kabukizabutai.co.jp//saisin/tokusyuu/203/

歌舞伎座の大道具を支える職人 提灯 その3
http://kabukizabutai.co.jp/saisin/tokusyuu/286/

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2013.06.13
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