その11 浅葱幕
歌舞伎の舞台では多種多様な幕が使われますが、幕の種類によって扱う係が異なります。この浅葱幕(あさぎまく)は、大道具が扱うもので、いろいろな演目で多用されています。
浅葱幕の主な使い方は、「振り落とし」と「振りかぶせ」。「振り落とし」は、あらかじめ舞台に幕を垂らしておいて、ぱっと幕を落として舞台を一瞬で見せるというもの。今月(2014年7月)の『夏祭浪花鑑』の大詰(屋根の上)の冒頭でも「振り落とし」があります(以下の写真)。
「振りかぶせ」は、逆にお芝居が進行しているときに、舞台上からぱっと幕をおろして舞台を隠してしまいます。いずれも歌舞伎ならではの優れた演出です。
その10 上敷(畳敷)その1
大道具では畳の部屋をあらわすときに「上敷(畳敷)」という長いゴザを用います。読み方は「じょうしき」です。畳の縁(へり)の使い方には、きまりがあり、以下のように使い分けています。
田舎家や生世話の屋体(長屋など)は、縁なし。
商家は、黒縁。
武家は、高麗縁(こうらいべり)。
2014年4月の演目では、『髪結新三』の新三の家は「縁なし」、白子屋と家主の家は「黒縁」。『一條大蔵譚』奥殿は、「高麗縁」です。
その9 囲い
「囲い(かこい)」とは「大臣囲い」の略で、舞台の上手と下手の黒御簾(くろみす)の前に飾る絵のことをいいます。
その8 ふすまの漢詩
『仮名手本忠臣蔵 九段目』は、由良之助が住む山科の閑居という設定で、ふすまには漢詩が書かれています。この文字も大道具の仕事の範囲となります。
漢詩は、唐の詩人・白居易(白楽天)の「折剣頭」で、6枚の襖に手書きで文字を書いています。
「拾得折剣頭」(折れた剣の切っ先を拾った)ではじまり、まっすぐなために折れてしまった剣の尊さがつづられています。
漢詩の内容も味わいがありますので、興味のある方は、書籍などで訳や意味を調べてみられてもいいかもしれません。
(漢詩は公演によって異なる場合もありますが、近年の歌舞伎座では「折剣頭」が多く使われています)
その7 「浜松屋」ののれん
来月(2014年2月)、歌舞伎座では『通し狂言 青砥稿花紅彩画』が上演されます(夜の部)。昨年の四月に歌舞伎座が新開場した際は『弁天娘女男白浪』という外題(げだい)で浜松屋見世先の場や稲瀬川勢揃いの場などが上演されましたが、今回は序幕から通しての上演となります。ちなみに、今回と同様に歌舞伎座で通して上演されたのは、2008年5月でした。
『通し狂言 青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)白浪五人男』
序 幕 初瀬寺花見の場 ←★2014年2月はここから全て上演
神輿ヶ嶽の場
稲瀬川谷間の場
二幕目 雪の下浜松屋の場 (←2013年4月上演)
同 蔵前の場
稲瀬川勢揃の場 (←2013年4月上演)
大 詰 極楽寺屋根立腹の場 (←2013年4月上演)
同 山門の場 (←2013年4月上演)
滑川土橋の場 (←2013年4月上演)
二幕目の「雪の下浜松屋の場」は、美しい武家の娘が一転して片肌を脱ぎ「知らざぁ言って聞かせやしょう」という名調子で客席を沸かせる有名な場面です。
この場面には2種類の「のれん」がかかっていますが、これは大道具の扱いとなっています。
屋体の上のほうにかかっている長いものが「軒のれん(のきのれん)」。
下手側の入り口にある、大きな文字で店名が書かれているものが「日よけのれん」です。
現代の漢字表記では、「はままつや」の「はま」の字は「浜」を用いていますが、お芝居の中ののれんでは古い字体を使っています。「浜」の古い字体はいろいろな種類がありますが『くずし字解読辞典 増補版』(児玉幸多編、近藤出版社、昭和45年初版発行)には、以下の2種類の文字が主要なものとして掲載されています。ごくわずかな違いで、点があるかないかです。
お芝居の中ののれんでは、字面のおさまりがよいので点のある (1) のほうを使わせていただいています。
歌舞伎座新開場柿葺落
二月花形歌舞伎
平成26年2月1日(土)~25日(火)
http://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/2014/02/post_71.html
その6 『松浦の太鼓』の玄関
2014年1月の歌舞伎座、壽初春大歌舞伎に『松浦の太鼓』が出ますので、少し道具をご紹介します。
『松浦の太鼓』は忠臣蔵外伝物の人気作で、赤穂浪士の吉良邸討入りの前日から当日を描いたお芝居です。今回ご紹介するのは、その最後の場面である松浦邸の玄関先です。まずは、道具帳をご覧ください。
この玄関部分の製作の様子を以下にご紹介します。
『松浦の太鼓』の演目解説(歌舞伎人HP)
壽初春大歌舞伎 平成26年1月2日(木)~26日(日)
http://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/2014/01/post_70-Highlight.html
『仮名手本忠臣蔵』の大道具 「進物場の門」
歌舞伎座では11月、12月に二ヶ月連続で『仮名手本忠臣蔵』が上演されます。知っておくと観劇がちょっと楽しくなる豆知識をご紹介します。
今回は「三段目」の進物場(しんもつば)の門にご注目いただきたいと思います。客席から見ると平面のようにも感じるかもしれませんが、立体で作られており、城郭などによく見られる高麗門という形式で作られています。大道具では、この門のことを「エヘンバッサリの門」と呼んでいます。お芝居をご覧になった方はすぐに察しがつくと思いますが、この場面では鷺坂伴内と中間(ちゅうげん)たちが加古川本蔵がやってきたときに襲いかかるお稽古をするという滑稽なやりとりがあります。伴内が「エヘン」とせきばらいをしたら、それを合図に中間たちが「バッサリ」と斬りかかる、つまりその台詞から「エヘンバッサリの門」という呼び名となっているというわけです。
ちなみにこの門は、製作課が立体を作り、塗り方(第二美術課)が色を塗ったり瓦を描いたりして作られます。
製作課 インタビュー
http://kabukizabutai.co.jp/seisaku/
塗り方 インタビュー
http://kabukizabutai.co.jp/daini_bijyutsu/
歌舞伎 on the webに『仮名手本忠臣蔵』のストーリーや人物相関図、観劇のポイントなどを紹介したページがあり、伴内と中間たちの「エヘンバッサリの場面」の写真も掲載されています。
歌舞伎 on the web 歌舞伎演目紹介 仮名手本忠臣蔵
http://www.kabuki.ne.jp/enmokudb/enmoku0001/outline.html
『仮名手本忠臣蔵』の大道具 「出投げ2」
歌舞伎座では11月、12月に二ヶ月連続で『仮名手本忠臣蔵』が上演されます。知っておくと観劇がちょっと楽しくなる豆知識をご紹介します。
今回は「出投げ(でなげ)」について詳しくご紹介します。
『仮名手本忠臣蔵 三段目』では前半が「進物場」、後半は「喧嘩場」とも称される「松の間刃傷の場」となり2つの場面があります。前半から後半に舞台が転換する際に「出投げ」があります(前触れなく、はじまりますのでお見逃しなく! 上手側から投げます)。
「出投げ」は舞台に上敷(じょうしき)と呼ばれる長いゴザのようなものを敷きますが、観客の目の前で丸めてある上敷を投げるようにして一気に舞台の端から端まで敷き詰めます。
以下は、「道具調べ」の際に撮影した「出投げ」の練習風景です。
その5 舞踊会の造花
2013年10月26日、27日は、歌舞伎座にて「花柳流流祖生誕二百年祭 三代家元七回忌追善舞踊会」が催されます。今年の4月に歌舞伎座が新開場してから、単独の流派としては初めての舞踊会です。舞踊会の舞台には折々に花が登場しますが、これらの造花は大道具が準備しています。舞台裏で、出番を待つ造花を少しご紹介します。
『仮名手本忠臣蔵』の大道具 「出投げ1」
歌舞伎座では11月、12月に二ヶ月連続で『仮名手本忠臣蔵』が上演されます。知っておくと観劇がちょっと楽しくなる豆知識をご紹介します。
大道具の転換は芝居の邪魔にならないように控えめに行っていますが、『仮名手本忠臣蔵 三段目』ではこの転換がちょっとした見せ場になるシーンがあります。それが「出投げ(でなげ)」です。転換の作業のひとつとして、舞台に上敷(じょうしき)と呼ばれる長いゴザのようなものを敷きますが、観客の目の前で丸めてある上敷を投げるようにして一気に舞台の端から端まで敷き詰めます。
出投げに使う上敷は、72尺(約22m)もあります。これを狙い通りにまっすぐ、端まで正確に転がすにはかなりの技術が必要。ちょっとでも方向が狂うと、客席の方向へ流れることもあるため、出投げを担当する者は前の月から終演後に稽古を重ねます。上敷はきっちり固く巻いておかないと舞台でうまく転がってくれません。上敷を巻く技術も重要(両手を巧みに使い、すごいスピードで巻いていきます)。
出投げを担当する者は、たった一人で舞台に出ます。経験者によると、一発勝負のため精神的にもかなり緊張するとのこと(この時、大向うから「大道具!」と声がかかることも)。
11月、12月は5人の担当者が交代で出投げをつとめます。