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「道具帳」ができるまで

大道具の仕事の裏側は、普段はなかなかお客様の目に触れることがありません。私たち裏方は本来は陰に徹するものであり、舞台の裏側をお見せすることで「舞台の輝き」を失わせることがあっては本末転倒です。しかし、大道具に関心を寄せてくださるお客様、これから大道具で働いてみたいと思われる方々に、先人の知恵の詰まった仕事の詳細や創意工夫をしながら常に新しく変化していく様子を知っていただけたらとも思っております。これから、少しずつ私たちの仕事についてもこのWebサイトでお知らせしていきたいと思っております。

歌舞伎の大道具は「道具帳」と呼ばれる一枚の絵を基に製作されます。

第一回は、「道具帳(どうぐちょう)」ができるまでをご紹介します。
道具帳とは、舞台を真正面から見たときの完成図のようなもので、1/50の縮尺で場面ごとに1枚ずつ筆で描いていきます。今回は、歌舞伎座の「八月納涼歌舞伎」(平成25年8月)に上演される『色彩間苅豆(いろもようちょっとかりまめ)』(通称かさね)の道具帳を作る過程をご紹介します。道具帳を描いているのは、弊社デザイン課の田淵宜孝です。

 

道具帳を製作中の田淵宜孝


デザイン課 社員紹介 田淵宜孝のインタビューもぜひご覧ください。
http://kabukizabutai.co.jp/recruit/interview/design.html


「歌舞伎座新開場柿葺落 八月納涼歌舞伎」平成25年8月2日~24日
http://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/2013/08/post_62.html

【1】線描き

黄色い縁取りに見えるのは、マスキングテープです。平面図、書抜き(製作図面)をもとに正確な寸法で線描きをします。
視点は歌舞伎座の客席2階の前列くらい。少し見下ろす感じです。背景の地平線(水平線)の高さに注意して、描いていきます。

【2】塗込み1(遠景)

まずは遠景から塗り始めます。今回は空をぼかして塗っていますが、照明で処理することもあります。
山の色は、空気遠近法によって遠い山を薄い色にしています。同様に、田圃や森も遠くが明るくなるようにしています。ぼかしは、筆とエアブラシを使い分けています。

【3】塗込み2(中、近景)

木地の色、土手、ヤブなどの緑色を入れていきます。水車小屋や橋、水門はムラがあっても大丈夫なので(後で仕上げの調子を付けるから)下描きの線が見えるくらい薄く塗ります。
この演目は舞踊なので(実際には所作舞台を敷くので)、地舞台よりきれいにしています。ちなみに地舞台の芝居の場合は、これよりも少し濃くし、板目を書く事もあります。

【4】塗込み3(スミなど濃いめの色)

黄色いマスキングテープがはがされて、だんだん最終形に近づいてきました!
土手は塗りぼかしていますが、更に代赭(たいしゃ)という色でぼかしを入れます。代赭とは、赤土から採れる赤鉄鉱を原料とする黄褐色または赤褐色の顔料のことです。
樹木は黒の上に下地の濃い緑色を重ねています。それから舞台の額縁上部の「一文字幕」などの黒い色も塗ります。

【5】仕上げ1

遠景の樹木、たんぼの畝、土手、ヤブ、それから近景の樹木の葉を描き込んでいきます。土手の襞(ひだ)や草のひげ、水車小屋などの細かい部分も手を入れています。

【6】仕上げ2

青もみじ、柳、河原なでしこを描き込みます。これまで橋のたもとに傍示杭(ぼうじぐい:境界のしるしに建てられた標柱のこと)を描き入れていたのですが、演者によって位置が変わるので、それを考慮して枠外に変更しました。最後に陰影を入れ全体の色調を整えて、完成です。

***


これ1枚でだいたい4〜5日くらいかかります。実際の舞台では照明もありますので、それも考慮しながら描きます。そして、この道具帳を元にして役者さんや演出家、振り付けの方との打合せをします。

道具帳を描くとひと口に言っても、やり方は1つではなく時と場合によって紙や画材が異なります。
日本画出身の人が描く場合は、和紙に絵の具がにじまないようにするために陶砂(どうさ:みょうばん水ににかわを溶かしたもの)を引いて、顔料(粉の絵具)を使って描きます。
今回ご紹介しているものも含め、歌舞伎座ではだいたいワトソン紙に主にアクリル系の絵の具で描いています。水に強く(濡れても大丈夫!)年月が経っても変色しにくいからです。しかし、部分によって代赭や緑青などの顔料も使います(道具帳は飾って眺めるものではなく、現場で働く絵なのです)。

実際に舞台の背景を描く時は、通常は布に泥絵具(どろえのぐ)で描きます。歌舞伎座の背景は通常(道成寺やかさねなど)はおおよそ縦4.5メートル、横30メートル、面積にすると135平方メートルという大きなものになります。泥絵具は、粘土などを顔料とした濁った絵の具のことで、大道具の世界では古くから使われてきました。粒子が粗いので、舞台にのせて照明を当てたときに乱反射を起こします。そのなんともいえない雰囲気が歌舞伎独特の照明に合うのです。

道具帳ができるまでのご紹介、楽しんでいただけましたでしょうか。今後もこのような特集記事を掲載していきたいと思っています。これからもどうぞよろしくお願いいたします。

※無断複写、転載を禁ずる。

2013/05/22
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